◆岩魚のすめる川があるから豊かな海がある。(第3話) 太古の昔から、森と川にすむ虫や魚の“食べられたり食べたりする関係”が続いてきました。豊かな森が川の生き物の命を支えています。
森と川にすむ虫たちの関係が壊れると岩魚は、安心して子孫を残していくことができなくなります。豊かな森があって水生昆虫が豊富な川は岩魚も元気に暮らせます。
岩魚のすむ渓流では、シイやカシの照葉樹、ブナなどの落葉広葉樹の落ち葉や枝がおびただしいほどに風に吹き飛ばされて溜まります。落ち葉の溜まった川底で掃除虫と呼ばれる虫たちがせっせと落ち葉を食べています。シュレッダーという落ち葉を小さく噛み砕いて食べている虫がいます。その側でシュレッダーの食べ残した葉片や他の生物の死骸や石にくっついた藻を刈り取って食べるグレイザーと、落ち葉の分解物を集めながら食べる収集専門のコレクターがいます。肉食のプレデターが掃除虫を食べています。岩魚がそのプレデターという虫を美味しそうに食べています。やがて岩魚も死んで虫たちの餌になります。上流の森や川の落ち葉やそこにすむ生き物を通してつくられたミネラルたっぷりの水は下流に、そして海に運ばれて、海の生き物にとっても大事な栄養になります。
近頃の岩魚の悩みは、人間とどうやって共存していくかです。本当の答えはまだ見つかっていません。豊かな森が少なくなり、めっきり餌が少なくなりました。川が分断され自由に移動することすらできないために、餌を食べたり子供を生む場所に行けなかったりしています。上流域の環境がだんだん悪くなってミネラルのたっぷり入った栄養入りの水が海に届かなくなってきています。
海の漁師さんたちも、岩魚のすむ山奥の環境の善し悪しが、豊かな海になるかならないかを左右する重要な要素であるこにということに気がつき始めています。
(環(わ)2010.8)