ことば ~魚にまつわる話~(第7話)

 
 日本語には『』にまつわる表現や言い回しが多くみられ、日常会話においても頻繁に使われます。

・鱈腹食べる
・鯖を読む
・鰻の寝床
・鰻上り
・トドのつまり
・まな板の鯉
・海老で鯛を釣る
・雑魚(ざこ) 
※小さいことやモノの喩え などなど。

 四方を海に囲まれている日本には、地域や四季折々の豊富な魚介資源に恵まれた食文化をもっているためか、魚や貝に関連した諺(ことわざ)や喩えなどの表現は枚挙にいとまのないほど多く存在します。

 もちろん世界の国々においても、魚にまつわる表現はあります。

 例えばロシア語では、魚を“рыба(読み方:ルィバ)”または“рыбка(読み方:ルィプカ)”と言いますが、日本語のように多様な魚の名称を使った表現はなく、“魚”一般に関する喩えがほとんどです。

Стоит упустить маленькую рыбку, чтобы поймать большую.(大きい魚を獲るには小さな魚を諦めよ→虎穴に入らずんば虎児を得ず)

Без труда не вытащишь и рыбку из пруда.
(労なくして池の魚は得られない)

 
 また、ロシア語では本来の“魚”の意味以外にも、俗語表現において“狡猾な人”や“賢い人”の意で使われることもあるようです。

 一方、英語においても同様、魚や貝を用いた表現はあります。

The world is your oyster.(世界はあなたの牡蠣だ→やろうと思えばどんなことも出来る)
※牡蠣殻の内側に光が当たると何色にも見えることから

He drinks like a fish.(彼は魚のように水を飲む→彼は大酒のみだ)

I feel like I'm a fish out of water.(水から揚げられた魚の気持ちだ→居心地悪く感じる)

 また、英語のfishには“fishy”という使い方があります。
 
 この語尾は、boy-ish(ボーイッシュ/男の子っぽい)やbrown-ish(茶色っぽい)などの“-ish”と同様で、名詞の語尾に“-y”を付けて“~っぽい・~みたいな”という婉曲な意味を表す言い方で、例えば、soap(石鹸)の語尾に“-y”を付るとsoapy(石鹸っぽい)、fishに“-y”を付けてfishy(魚っぽい)というニュアンスになります。

・This water smells soapy.(この水は石鹸っぽい匂いがする)

The cheese tasted fishy.(そのチーズは魚みたいな味がした)

 ちなみに、“fishy”は英語の俗語表現の一つとして、 “怪しい・うさんくさい”などの意味で使われます。

His story sounds fishy to me.(彼の話は怪しいと思う)

This project looks fishy.(この企画は眉唾ものだ)

 おそらく、この”fishy”のイメージは、魚を掴む際に手から滑りやすいことから“掴むまで確信できないもの”、または時間が経つと匂いを発することから、“いずれ(腐った)匂いが出るもの”の意から来るものだと考えられます。

 お国の“ことば”の成り立ちは、その国の地理的環境や生活環境、文化的背景などに深く関係していると考えられます。

 日本近海で獲れる魚の数は種類も豊富で、魚の呼び名も生息する地域や大きさ(形)で異なる場合がよくあります。

 魚(肴)は日本の食文化に欠くことのできないものであり、日本語を使う際にも、“魚”に関する言語表現がごく頻繁に登場します。
 中には、もともとの意味に気付かないほど一般化し、定着した表現もたくさん見受けられます。
  例)(トド)のつまり、鱈(たら)腹食べる、鯖(さば)を読む…などなど。

 その意味で日本語は、“魚”に関連する言語表現がバラエティーに富んだ、他に類をみない言語のひとつであると言えます。

(2018年4月:shu)