~ことばと数の概念~(第9話) 魚(魚介類)のかぞえ方は意外と複雑だ。
頭から尾ヒレまで丸っと整った魚を1匹,2匹、又は1本,2本を基本に、商品や食材用になると1尾,2尾とかぞえ、カニやイカを扱うと1杯,2杯と呼ぶ。細い魚には「条」、平たい魚には「枚」。さらに加工品に対しては「枚」や「切れ」や「冊(サク)」や「丁」など、魚の形状や用途によって使い分けは結構複雑だ。
このように、数に添えて、モノの見た目や形状、大きさに加え、食材の用途までを弁別可能にする表現手段を日本語の助数詞という。
数のかぞえ方と数(スウ)の概念は国や文化により異なる。
英語では名詞の語尾に- sを付けると複数の指標となるが、fish(魚)の複数形はfishである。一般的に、魚や羊など、群れで行動するイメージの強い生き物に対しては単・複の概念を持たないようだ。
ロシア語は全ての名詞に単数形と複数形があり、魚(рыба[ルィバ])にも複数形(рыбы[ルィブィ])が存在する。
ところが、いざ数をかぞえようとするとかなり面倒だ。ロシア語で数をかぞえる場合、数に応じて名詞の語尾を変化させなければならない。
例えば、数量が1で終わるなら単数形のрыба、2と3と4だとрыбы(※12,13,14は例外)、それ以外は全く別の形рыбを使うという文法上の規則がある。ロシア人は会話の中で自然と使い分けているのだが、外国人学習者にとって非常に厄介である(例:1 рыба, 3 рыбы, 4 рыбы, 5 рыб, 12 рыб, 20 рыб, 21 рыба, 22 рыбы, 9991 рыба)。
日本語でも、1匹[ピキ], 2匹[ヒキ],3匹[ビキ]とかぞえる場合、数に応じて音を微妙に変化させる訳だが、これもまた、外国人学習者にとっては不可解な規則のひとつと言える。
世界の言語の中には、単数と複数の概念のほかに、『双数形(ソウスウケイ)』と呼ばれ、モノや人の数が“2”であることを示すためだけに使う余計?な形式をもつ言語が存在する。古くはサンスクリット語や古代ギリシア語を始め、多くの言語で使われていたが、現代ではスロベニア語やソルブ語などの一部の言語にしか残っていない。
逆に、10~20以上の数に対しては、特段の区別を必要としない言語もあるようだ。
人間の指の数を考えれば、極めて合理的かもしれない。
一方、複数形のない日本語では、名詞の後に「~たち」や「~ら」を付けるか、あるいは単語を連ねた表現(畳語(ジョウゴ))を使って複数の概念を伝えることができる(例:「神々」「人々」「山々」等々)。だが、"犬々", "車々", "川々", "魚々”などとは決して言わない・・・。
日本語において「さかな(魚)」は集合名詞的な意味を含んでおり、敢えて複数の形式を必要としないと言える。
ましてや沢山の魚たちを前にして『安くて新鮮な“魚々(ギョギョ)”が手に入ったから、早くこの“魚々(ギョギョ)”を食べちゃわないと!」などという会話は聞いたことがないし、むしろこうなると、一体、どれだけ仕入れたのか、数が気になってしまう。
余談になるが、さかなクンが驚いた時に発する『魚々(ギョギョ)!』は、単なる≪さかなクン式オノマトペ≫と言うべきなのだろうか。
(2021年3月:shu)