海水からのリチウムを回収する話(第4話)

<日本は、リチウムの全量を海外からの輸入に頼っています>
 カメラのボタン型電池、携帯電話やパソコンなどの充電式電池、また、今後大幅な導入が予想される電気自動車のバッテリーなどの原料として使われるリチウムは、我が国では、その全量を海外からの輸入に頼っています。
 2009年の輸入量は20,000トン弱ですが、今後は、スマートフォンや電気自動車の普及拡大による大幅な需要の増加が予想されています。
 リチウム資源の埋蔵量は偏在しており、我が国はそのほとんどを南米・チリからの鉱石輸入に依存しています。今後の世界的なリチウム需要の増加を考えると、偏在性と独占的供給による商業的な需給ギャップが懸念されることから、最近、中国の輸出制限で話題になったレアアースと同じように、資源調達の多様化を図る必要性が指摘されています。

<リチウムの埋蔵量は?>
リチウムは陸上の推定埋蔵量1,400万トンに対して、海水中には2,300億トンも溶けていますが、海水1リットル当たり0.1〜0.2ミリグラムと濃度が低いのが難点です。
 しかし、コストの面で実用的な回収方法が開発されれば、リチウムの国内自給も夢ではありません。そこで、海水からリチウムを回収しようという話が出てくるわけです。
 海水からのリチウム回収技術の開発は、わが国でも長年行われており、その実用化の構想として発電所の排水を利用する方法が提案されています。リチウムの回収のためだけに海水をくみ上げているのでは、到底、採算が取れないので、発電所の排水を利用することで、経済性を確保しようという狙いがあります。

<どんな回収方法があるの? どれくらいの回収ができるの?>
今、日本にある発電所の排水や海流発電、潮流発電などを利用する手が考えられますが、私は、将来の海洋エネルギー利用技術として期待されている海洋温度差発電(OTEC)を使うことができればと思っています。
出力100万kW規模で、冷海水と温海水を合わせれば、なっ!何と3,000 m3/秒の海水を使うのです。これらの海水に溶けているリチウムの全量が回収できたとすれば、出力100万kWで年間24時間運転された場合、海洋温度差発電では、なんと日本の年間輸入量に匹敵する18,000トンが回収できることになります。
嬉しいことに近々、沖縄の久米島で50Kw級のOTECの実証試験が始まるとのことです。

<OTECなど、海洋深層水を利用するメリットは?>
 海水中のリチウム濃度は深層でも表層でもほとんど変わりません。ただし、回収技術として表層海水による吸着方法を取る限り、生物汚損(付着生物等による汚れ)の問題は、避けられません。海洋深層水は表層海水とくらべてきれいなので、施設的なメリットとして海水中のゴミや懸濁物質などを取り除く前処理が不要になります。
 また、水温が低いので発電所の冷却水として使うことで発電効率が改善される効果もあります。
 表層海水は生物の宝庫であり、植物プランクトンもいれば、魚の卵もあれば、数え切れないほどの海洋生物が生活しています。ですから、生物豊富な表層海水を発電所の冷却水やリチウム回収に使うのは、生物的に見ても、あまり好ましくありません。
 一方で、海洋温度差発電は従来の火力発電や原子力発電と比べて、ケタ違いに大量の海洋深層水を使うことになりますから、環境アセスメントは必須条件になります。大量の海洋深層水を汲み上げることによる海域への影響予測は重要な課題になるでしょう。

<海洋深層水を複合利用する>
海洋深層水複合利用型のOTECでは、海洋温度差発電(OTEC)を行ないながら、その排水からリチウムを回収すると同時に、海水の淡水化による水資源の確保、地域冷房、地域産業への利用、農業・漁業への利用なども合わせて提案されています。
 福島での原子力発電所の事故を受けて、自然エネルギー利用の再評価が始まっている現在、無限の海からエネルギーと資源を得る“海洋資源複合利用システム”の開発構想は、今後の研究開発対象として十分価値のあるテーマではないでしょうか。

(環 わ:2012年2月)